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後に枳園の語った所によると、江戸を立つ時、懐中には僅に八百文の銭があったのだそうである。この銭は箱根の湯本ゆもとに着くと、もう遣つかい尽していた。そこで枳園はとりあえず按摩あんまをした。上下かみしも十六文の※(「米+胥」、第4水準2-83-94)銭しょせんを獲うるも、なお已やむにまさったのである。啻ただに按摩のみではない。枳園は手当り次第になんでもした。「無論内外二科ないがいにかをろんずるなく、或為収生あるいはしゅうせいをなし、或為整骨あるいはせいこつをなし、至于牛馬※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)狗之疾ぎゅうばけいくのしつにいたるまで、来乞治者きたりてちをこうものに、莫不施術せじゅつせざるはなし」と、自記の文にいってある。収生しゅうせいはとりあげである。整骨は骨つぎである。獣医の縄張内なわばりないにも立ち入った。医者の歯を治療するのをだに拒もうとする今の人には、想像することも出来ぬ事である。
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