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それからこのついででないともう他にいう折はないが、絵かきたちだけの今でも遊んでいる空想境に、天狗の酒買い狸の酒買いなどという出来事がある。白鳥の徳利や樽たるに通かよい帳ちょうを添えて、下げて飛んでいる場面は後世風だが、由ってくるところは甚だ久しいようである。自分は別に今日の酒樽の原型として、瓢ひさごの盛んに用いられた時代を推測し、許由以来の支那の隠君子等が駒こまを出したり自分を吸込ませたり終始この単純なる器具を伴侶はんりょとしているには、何か民俗上の理由があるらしいことを、考えて見ようとしているのであるが、それは広大なる未解の課題だとしても、少なくとも山の人の生活に、この類の僅かな用具が非常なる便益であり、従って身を離さずに大切にしているのをみて、我々の祖先までがこれを重んじ、何か神怪の力でも具そなうるかのごとく、惚ほれこみ欲しがり、貰えば宝物にしようとしたことだけは、説かずにはおられぬような感じがする。『落穂余談おちぼよだん』という書の巻二に、「駿河の山に大なる男あり。折々おりおりは見る者もあり。鹿しか猿さるなどを食する由なり。久世太郎右衛門殿物語くぜたろうえもんどのものがたりに、前方此男出でけるに、腰に何やらん附けて居る故、或者あるもの近く寄りてそれを取り、還りて見れば高麗こうらいの茶碗ちゃわんなり。今に其子の方に持伝へて居おりける由。丙寅へいいん八月、宇右衛門殿物語り。甚兵衛殿も聞及ぶの由、同坐どうざにて語る」とある。これなどは山姥から、褒美ほうびにもらったというのと反して、手もなく山男から掠奪りゃくだつしたのであるが、最初どうしてこのような品を、彼らが拾い取りまたこれを大事にしていたかを考えると、小説家でない我々にも、いろいろな珍しい光景が空想せられる。例えば盗賊が始末に困って、山中に隠して置いたとか、大百姓の家が退転して、荒屋敷あれやしきになっているところへ、のそのそと来かかった山男が、光るから手に取上げて嗅かいだり嘗なめたりしていたとしたら、彼らの排外的なる社会にまでも、浸しみ入らずにはおかなかった異種文明の勢力の大きさの、想像に絶したものがあることが考えられる。
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